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北森みおさん

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『星夜行』

2011/09/09

『星夜行』(パロル舎刊 1260円)

 この小説は、原爆が投下されてから9年後を設定していますが、1954年の広島を忠実に描いているわけではないんです。そこはもう一つの広島で「もし何か一つでも事実が違っていたら、人の生死は逆転していたかもしれない」という危うさを伴っています。
 私の父もそうでした。広島へ原爆が投下された朝、当時中学生だった父は呉から電車に乗って爆心地近くの作業場へ向かう途中、広島駅で被爆しました。その日、父は遅刻したのです。だから、吹き飛ばされてケガをしただけで命は助かりました。後に、爆心地近くで亡くなった同級生たちの写真を見せてくれたことがあります。もし父が遅刻しなければ、私は存在しないと思うと不思議な運命を感じます。
 父はその体験についてほとんど話をしませんでしたが、そのことが今回の作品を書くきっかけになっています。私は父親っ子で、本が大好きだった父の影響を受けて育ちました。父のお下がりの本を読み、休日のたびに新しい本を買ってもらいました。その父は52歳で亡くなりました。だからこの作品が出版されたとき「私が本を出したと知ったら喜ぶだろうな」と思いました。
 原爆をテーマにした長編小説を書いたのは今回が初めてです。私はリアルな原爆を知りません。けれども書き手としてのイマジネーションは広げられると思いました。思い浮かべるしかないもどかしさはありますが、これから先、原爆を体験していない私たちが原爆を伝えていくためには、想像するしかありませんよね。だから、この作品は誰かの体験に基づくものではなく、私の心の中にあった風景を言葉にしています。

 小説の中で、路面電車と川が大きな役割を果たしています。私が住んでいる近くに天満川が流れていて、その遊歩道をよく歩きます。特に夕方の川が好きです。川にはこちら側と向こう側があります。その風景を眺めていると、紙一重というか、少しのことで大きく違う生と死の境のような危うさを感じるのです。
 天満川のほとりでよくサギの鳥を見かけます。いつも一人ぼっちで、じっと立っているんですよ。私はその凛とした美しい立ち姿が大好きで、いつも見とれてしまいます。一匹だけで群れないところに、親近感を覚えたりして(笑) 調べてみるとサギは「向こうとこちらをつなぐ鳥」なんだそうです。それが気に入って、何かの形でサギを登場させたいと思いました。だから「アマネくん」という少年は、腰に青カササギのお面をぶらさげています。

 物語は、5月から9月をひと月ごとに分けて、5章で構成されています。すべての章に手づくりのお菓子や飲み物が出てきます。カミツレのビスケット、レモンソウのビスケット、ハッカ飴やハッカ水。「読み終えるとビスケットが食べたくなった」と言う人もいますが、どれも夢の中で作るようなビスケットで、本当に作ったらおいしくないと思います(笑) ただ、食べ物や飲み物は人と人をつないで、気持ちをやわらげてくれます。特に人が手づくりしたものには、そんな力がありますよね。
 例えば、寂しがりやのアマネくんが主人公のムギを川の向こうに連れて行こうとする場面で、ムギは一緒に行けない代わりにソラ姉さんが焼いたビスケットをあげます。アマネくんのどうしようもない気持ちを、ほんの少しでもやわらげたい――そんなムギの優しさがビスケットによって伝わればいいな、と思います。

 この作品には、あえて「広島」という言葉を使っていません。具体的な「広島」を出さないことで、普遍的なものにしたかったからです。広島に住んでいる方は広電の電停を思い浮かべながら読んだり、“港”といえば広島港を、“大学前”は広島大学の跡地を連想するかもしれません。わかる方には身近な場所に感じてもらえると思います。
 「原爆」という言葉もこの作品には必要ないと思いました。『あの日』など抽象的な表現に置き換えています。それよりもむしろ、原爆で大切な人を失った人々の思いを書きたかった。世の中には、どうしようもない力で引き裂かれることがあります。原爆もそうですし、東日本大震災もそうですよね。でも、人が人を思う気持ちや愛しさだけは、消えない“光”のようだと思っています。読む方にそんな思いが伝われば嬉しいです。

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北森みおさん

著者プロフィール

北森みお

きたもり・みお/広島県呉市生まれ。広島市在住の小説家。大阪教育大学卒業。『星夜行』(パルロ舎)が第1回広島本大賞最終候補にノミネートされる。同作品は「星夜行〜約束のリボン」として広島エフエムでラジオドラマ化され、その脚本も手がけた(2011年8月7日放送)。主な作品に「ふしぎな夢」(『だいすきミステリー』偕成社)、「変身鏡の秘密」(『ミステリーがいっぱい』偕成社)、「北極星の夜」(「日本児童文学」2010/11・12月号)などがある。

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