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「証言録・海軍反省会」

戸皸貔さん

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「証言録・海軍反省会」

2009/11/26

聞き書き 日本海軍史

歴史の伝え方にはいろいろありまして、これまで起こった事柄を、きちんとドキュメントとして伝えるものもあります。でもそれは、決して歴史の全てではありません。結果として、そういった事実があったということは間違いではありませんが、その歴史が生まれた背景を知ることによって、さらにそれを掘り下げることができるのではないでしょうか。
歴史に対する興味で生きているような私ですから、未だに、あれはどうしてなんだ? っていうことが一杯あるわけなんです。そういったことを追求していく作業の中で、出てきた一つの結果がこの本となったわけです。
 私が若い時、日本海軍の幹部の方、それこそ将官クラスや艦長クラスのような人から、直接話を聞く機会がたくさんあったんです。いつも一緒に昼食をとっていたとか、いつも顔を合わせていまして、そういう方たちとの茶飲み話しみたいなものの中から、非常に興味深いお話しを伺うことができたのです。普通、資料として残す場合は、この人はこういうキャリアが持っているから、これについて聞きましょうということで、きちんとインタビューしてヒアリングしますけど、私自身は、資料を残すっていう意識なしに聞いていた話しばかりで。他の学者が歴史として聞いたのとは、また違うものなんですよね。聞かれる側は、インタビューとして聞かれると構えてしまって、話しが綺麗になってしまいます。しかし本音っていうのは、何でもない時にポロっと出るのがたくさんあります。ですからこれまでの歴史資料にはない、当人が言えなかった、書かなかったという話がたくさんあったわけです。そういう話を雑談のとして伺っていたものが、この本の中には随所に出てくるのです。
 例えば、当時の参謀の方が今朝どんなものを食べたかとか、朝から晩まで酒を飲んでたとかね。私が知っている方なんて、参謀の自分の部屋の隅っこに、ウィスキーの箱を天井まで積んでいたぞっていう人がいたりですね。そんな形式ばったヒアリングの中では、決して出てこないような話。そういうところが、重用なのではないでしょうか。物事を知るって言うときに、表面ってというか、建前だけでは決して分らない。同じことでも、どういう環境で、どんな雰囲気でそれが語られたか、なされたかっていうことを本当に知るためには、その背景も知らなければならないと思うのです。生活感のある、当時の生な空気が伝えられている「さぁ、これから話しをします」っていうものではない、本当に顔見知りだけの内輪の場での話し。思いのまま語れる雰囲気のなかでの話しに、歴史の真実の片鱗が見えるんじゃないかと思うんです。

結果として考えると、歴史ですからすからどんな資料も同じものです。しかし、それがどういう雰囲気で決定されたか、そういうことが分ると、歴史に対して理解がまた違ってきまして。例えば、日本が太平洋戦争を始めようとする段階でも、みんなが本当に頭を寄せ合って真剣に討議してやったのか、なんとなくやってもいいんじゃない? っていう雰囲気で決まったのか……。そういうところまで知って初めて、結果としての太平洋戦争開戦に繋がるのです。活字で残された歴史年表だけで歴史を把握するよりも、その歴史が作られた人間味溢れる背景を掘り下げることで、歴史的真実に一歩近づけるんじゃないかと考えるのです。
もっと言えば、歴史というものは人間が作るものですから、最後は人間を知ることが重要なのです。その人たちのキャラクターですとか、人間関係。例えば連合艦隊司令長官であった山本五十六さんと、連合艦隊参謀長の宇垣さんは、果たしてソリが合っていたのだろうかとか、日ごろどんな距離感で仕事をしていたのか。さまざまな人のウマが合う組み合わせ、仲の悪い間柄ですとかね。そういう人間関係が、日本のさまざまな決定に影響を与えたわけなんです。「なぜここで、こんな判断をしたんだろうか」というときに「この資料を持ってきたヤツが嫌いだから、この案件を蹴ったんだ」とかね。この人とこの人の組み合わせだから、ここは上手くいったんだろうとか、この組み合わせたから、ここは失敗したんだろうとか。そういったことが、話しを伺っていると少しずつ見えて、歴史の流れの中でなるほどって思えてきたことがたくさんありました。
人が話した言葉というものは、活字と違い、なにかに残しておかないと、そのまま消えて無くなるわけです。私が伺ってきた話は非常に興味深く、歴史的資料の価値が充分にあると思います。しかし、これをそのままにしていたら、私が死んでしまったら消えて無くなってしまうのです。それでは、あまりにもったいない。どうにかして、この貴重な話を伝えていかなければならない。そう考えまして、断片的ではありますが、本という形にすることで、歴史をより深く知る資料として、若い人たちに役に立てばという気持ちで執筆を始めたのです。私が勤めている大和ミュージアムでも、そういった、人の顔の見える歴史展示に力を入れていきたいと思っているのです。


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戸皸貔さん

著者プロフィール

戸皸貔

1948年宮崎県生まれ。92年(財)史料調査会理事就任。99年厚生省所管「昭和館」図書情報部長を経て、05年、呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)館長に就任

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