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迫 勝則さん

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「前田の美学」

2009/11/20

道を極める者

 私は半世紀にわたるカープファン、子どものころからカープファンでして、ずっとカープを応援しているのです。そうやって、ずっとカープとプロ野球を見続けてきたなかでも、前田智徳とういう選手は、デビューしたころから、ちょっと不思議な感じがしたんです。例えばヒットを打って、一塁に立ったときにも、首をかしげてるんですよ。誰が見てもクリーンヒットなんですが。ホームランを打っても、首をかしげながらベースを一周するんです。どういうことなんだろうかと思って、興味を持ち始めたんです。それがいわば、この本のスタートでしょう。
 そのうち彼の面白い言葉が、いろいろなメディアを通じて聞かれるようになりました。アキレス腱を切ったときは「前田は死にました」。「復帰は出来るけど、復活はできない」なんて言葉も聞きました。あれ? どういう意味で言ってるんだろうと。またあるときは、あるスポーツ記者が「これまでの会心の当たりは?」と聞いたところ、彼は「ファールならあります」と答えたんですよね。ヒットやホームランでは、会心の当たりはまだないと。おもしろい選手だなと、ますます彼に着目したんです。
前田の個人的な記録や、打撃のセンスはもちろんですが、野球に対する考え方。むしろ野球道、野球哲学と言ったほうがふさわしい、そんな彼の人間性にとても惹かれたのです。
 では、前田とはどんな選手なのかと言うと、単にバッターボックスに立って、ピッチャーの投げた球を打つっていうレベルではなく、ピッチャーとバッターの、1対1の勝負がそこにはあるんです。それが彼にとって全てなんですよね。そこに全てがフォーカスされているんです。どういうことかと言うと、前田にとってその打撃、打席というは、茶道、華道、剣道、柔道、野球道、打撃道……などといった「道」の延長上にあるものではないかと、感じているんです。彼の場合、ネクストバッターズサークルからバッターボックスに入るまでの歩数、リズムというのが決まっているんです。ボックスに入ると、決してピッチャーは睨みつけず、 自分で気を静め、足場を均すして、軽い素振りをする。そして、チラッとピッチャーを見るんです。それが勝負開始の合図でしてね。相手のピッチャーもそれが分っていますから、前田のときには、その合図を待っているんですよ。
 西洋の場合は、花を飾るとしたら花束。しかし日本の場合は、華道として花に一本ずつ意味を持たせるんです。お茶を飲むときでも、西洋はマグカップでググっと飲みますが、日本は茶道というものがあり、一つずつ動作に意味があるのです。
それと同じように、前田智徳にも「打撃道」があるのでしょう。一つひとつの動作に全部意味があるんです。これが分ったとき、あぁそういうことだったのか。だから前田には完璧という言葉が無いのだと納得できたのです。人から見ていく会心の当たりでも、彼からすると、今のはもう少しこうすればっていう、常にもっと上をっていうね。その姿勢を、若いときからずっと貫いている選手なんです。そういった意味を含めて、多くのプロ野球選手が、前田のことを尊敬しているのではないでしょうか。

鍵を握る「威圧感」

 これまで、本当にいろんな選手を見てきましたけど、その道を極めるという精神は、前田が一番だと思います。道を極めるそのためには、精神や気持ちを静め、それから高めていくことが含まれます。誰が考えても、今シーズンを彼は棒に振ったわけです。1億円以上の年俸の選手が、大野の練習場でひたすら練習を続けていたわけです。体調も体力も充分。でも、気分が乗らなかったのは一体なにが原因だったんだ? 1シーズンを棒に振ってまで、彼が守り通したものって……。西洋の野球と、前田自身が大切にしている物が、完全にすれ違ってしまったんですね。そういう気分になれなかったんだと思うんです。たくさんの年俸もらっているのだから、監督の言うとおりにして、試合に出てそれなりの成績を残せばいいじゃないかということが、前田にはできなかったんじゃないかなと感じるんです。ですから、彼を使うためには、そういうことを全て理解できる人だと思うんです。来年、彼は38になりますけどね。全盛期まではいかないとしても、まだ全然活躍できる選手であるし、相手チームからしてみれば脅威そのものだと思うんです。
 今年のカープは、よく走れる選手や意外な選手を使っていましたけど、相手方から見ると、しめたって思うこともあるでしょう。走る野球を目指し、威圧感のない選手がオーダーに並んでも全く怖くないんですよ。でも打順に栗原(健太)がいるとね、打てなくてもやっぱり警戒しますし、怖いですよね。それに前田だとか、石井(琢郎)だとか。そういったすごい実績を持っている選手が加わると、相手は気を抜けるはずがありませんよね。そういった意味でも前田智徳は、カープの重要な役割を担う選手であると考えているのです。


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迫 勝則さん

著者プロフィール

迫 勝則

1946年広島市生まれ。山口大学経済学部卒。2001年にマツダ株式会社を退社。現在、広島国際学院大学現代社会学部長(教授)。著書に、『さらば、愛しきマツダ』(文藝春秋)、『広島にカープはいらないのか』(南々社)、『前田の美学』『カープの美学』(宝島社)などがある。

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